意外と多いFPVモーターの規格
これまで私はプロペラ半径5インチのFPVを中心に、さまざまなサイズのマルチコプターを組み立ててきました。
同様に、さまざまなサイズの機体を組み立ててきた方々は、マルチコプターに使用されるモーターの規格や種類について十分な知識を持っていると思います。
もちろん知識があるからと言って常に思い通りの機体が作れるわけではなく、実際にはトライアンドエラーは必要なのですが、知識と経験のある方の場合、機体のサイズと用途が決まれば、その時点で既に使用するモーターの候補はかなり絞られている事と思います。
しかし、経験が浅い方や、これまであまり取り扱ってこなかったサイズの機体を組みたいと思った場合、どのフレームにどのモーターが適しているのか、そのモーターにはどのプロペラが使用可能なのかなど、基本的な部分でつまづくこともあるかもしれません。
製品のリリース時期やメーカーによって表記が異なることもありますし、普及しているクラスのものほど細かい仕様がわざわざ公表されていなかったりします。
最近では新しいサイズのモーターが多くリリースされており、モーター選びは以前よりも複雑になっていると思います。
機体のサイズや重さ、目的に応じてモーターを選びたい時も、また新商品の性能をイメージする上でも、基礎的な知識を持っているとモーターの選択が楽しくなるでしょう。
例外はいくらでもあるとは思いますが、一般的に普及しているモーターの規格について、クラス別に、何回かの記事に分けて紹介したいと思います。
まずは5インチを例に基本をおさえる
FPVマルチコプターの王道と言えばなんと言ってもプロペラ半径5インチ、フレームに搭載された4つのモーターの対角の距離で言うと240mm前後のクラスでしょう。
このクラスの機体は主に「レース」や「フリースタイル」に使用されます。
一般的に、このクラスでは2306または2207程度のサイズのモーターが使われるのですが、「レース」や「フリースタイル」はFPVにおいて非常に人気のあるカテゴリーなので、さまざまなメーカーから沢山のモデルのモーターがリリースされています。
写真右側のT-Motor F60Pro IV V2.0のモーターサイズは2207.5で、2207よりも少し大きいサイズのモーターであり、XX.5のように小数点が付くサイズのモーターも存在します。
機体の離陸重量や飛行方法によって、選択すべきモーターのサイズは変わってきますので、5インチの機体には必ずこのサイズのモーターを使用しなければならない、というわけではなく、逆にこのサイズのモーターを別のクラスの機体に使用してはいけない、ということもありません。
モーターのサイズ
ここで、モーターのサイズについて簡単に触れましょう。
2306は「23mm」と「06mm」、2207は「22mm」と「07mm」の意味ですが、これはモーターの外寸ではありません。
FPVで使用されるほとんどのモーターは上記の画像のように、ベル(左)とステーターユニット(右)に分離できます。
このコイルが巻いてあるステーター部の直径と高さが「2306」「2207」という形で示されています。
モーターの回転速度
モーターの回転数についてもここで簡単に触れておきます。
速度定数と呼ばれるものが「KV」で表記されています。KVは1ボルトあたりの回転数(RPM)を示しています。
先程の画像のETHIX Mr Steele Silk Motor V3は4S用のモーターであり、2345KVです。
充電された4Sバッテリーを使用した状況を想定すると、2,345(KV) * 16.8(V) = 39,396(回転数/毎分)となります。
ただし、この値はモーターが無負荷状態で潜在的に回転できる速度を示す指標であり、実際の飛行中にプロペラが回っている速度を表しているわけではありません。
一般的に、重いプロペラを効率的に駆動するためには、低いKVのモーターを使用することが望ましいと言われています。
モーターのサイズと回転数を理解し、さらにいくつかのモーターを使用した経験があれば、使ったことのある製品に近いモデルの性能を大まかに予測できるようになると思います。
たとえば、既に購入して使い込んだ完成機がある場合、その機体のモーターサイズとKVを調べるだけでも理解が深まるはずです。
互換性
基本を抑えたところで、次は互換性について説明します。
今回は5インチクラスのFPVモーターに関する規格について紹介しますが、モーターはフレームに固定され、そのモーターにはプロペラが取り付けられます。
マルチコプターは飛行を目的とするため、そのパーツは最低限の重量でなければなりません。
そのため、小型軽量な機体向けのモーターは軽量に作られています。
一方、大型機体向けのモーターはより多くの力を必要とするため、大きくて頑丈に作られていますが、その分重くなります。
機体のサイズに応じて複数の取り付け規格が存在するのは、機体の性能を最大限に引き出すためと言えます。
また、モーターの配線はESCに接続されます。
モーターの種類は大きくブラシモーターとブラシレスモーターの2種類に分けられ、それぞれ専用のESC(ブラシモーターの場合はFCと一体型のAIOボードがほとんど)に接続する必要があります。
ただし、5インチクラスでは基本的にはブラシモーターは使用されないため、この点については別の記事で紹介したいと思います。
ESCの選定方法については、今回の記事の主題から外れるため、今回はあまり詳しく触れませんが、モーターを中心に考えるとESCで注目すべき仕様は最大入力電圧と最大電流です。
最大入力電圧はESCの仕様に記載されており、使用したいモーターの入力電圧に適合したモデルを選びましょう。
最大電流については、モーターのデータシートを参考にしてモーターが引き出す最大電流を確認し、余裕のあるスペックのESCを選ぶと安心です。
実際には常にフルスロットルで飛行するわけではないので、自分の飛行方法や経験、ESCメーカーの信頼性、機体の目的などを考慮して選択します。
例えば上記データシートを参考に、T-Motor F60Pro IV V2.0、KV1750のモーターを使用し、T5143Sのプロペラで構成する場合、私がフリースタイルの練習機として日常的に使用する機体だとしたら、30AのESCでも十分使用可能と判断することが多いです。
最終的な機体の重量や使用するESCのメーカーによって判断は変わりますが、以前は25Aから35A程度のESCが一般的であり、5インチの機体でも十分な飛行ができていました。
私のフライトスタイルもそんなに現代的な方ではありませんので、充分使える機体になると考えます。
私はFPVフリースタイルの場合、ESCやモーターを消耗品と考えており、長期的なコスト効率も重視しています。
自分に合った選択をするためには、知識やデータだけでなく、経験に基づいた判断も必要です。
シャフト径
プロペラを取り付けるための棒はシャフトと呼ばれます。
2306や2207サイズで一般的な直径4〜5mmのシャフトは幅広いモーターサイズで採用されており、2812から1407までのモーターに見られます。
シャフト径4mmと記載されたモーターでも、実際に測ってみると4.8〜4.9mm程度の直径があることがほとんどで、これらには取り付け穴サイズもしくはシャフト径が5mmもしくはM5などと記載されたプロペラを使用できます。
ただし、シャフト径が同じでもシャフトの長さはモーターのサイズやモデルによってさまざまなので、特に小さいモーターに過剰に大きいプロペラを選択する場合は注意が必要です。
当店ではハブ厚と表現していますが、必要に応じてプロペラのシャフトを受ける部分の厚みを確認しておくと安心です。
取り付けパターン
フレームにモーターを固定するためには、ステーターユニットにある4つのネジ穴を利用します。
しかし、5インチクラスの機体で使用する2207もしくは2306モーターでも、取り付けパターンの規格がモデルによって混在しています。
現在このクラスで主流なのは対角のネジ穴の中心同士の寸法が16mmのタイプと19mmのタイプの2種類で、どちらも取り付けネジはM3を使用します。
上記画像右側T-Motor F60Pro IV V2.0で採用されているのが16mmのタイプ、上記画像左側ETHIX Mr Steele Silk Motor V3で採用されているのが19 mmのタイプです。
ただし、ETHIX Mr Steele Motorも V4以降では16mmに変更されており、最近のモーターでは比較的16mmの規格が多いようです。
取り付けパターンが2種類の規格で混在しているものの、このクラスの多くのフレームは16mmと19mmの両方に対応できるように設計されています。
そのため、レースやフリースタイルなどの用途では、ほとんど問題が発生しないと考えられます。
ただし、フレームによっては、モーターを取り付けるアームの厚みが異なる場合があります。
特にフリースタイルフレームのアームの厚みは、従来4mm厚が一般的でしたが、最近では5.5mm厚のモデルが増えてきました。
モーターに付属するネジを適切に使用しないと、短すぎて充分に固定できないか、長すぎてコイルを損傷する可能性がありますので、使用する前によく確認しましょう。
また、Lumenier QAV-PRO Whoop 5" Cinequads Editionなど、シネリフター系のフレームの場合、一般的なレースやフリースタイルの常識が通用しない場合があります。
QAV-PRO Whoop 5"に19mmのモーターはそのまま取り付けることができますが、16mmのモーターには対応していません。
そのため、どうしても16mmのモーターを使用したい場合は、フレームのアーム部をヤスリで削る必要があります。
シネリフター系のフレームは、Blackmagic Cinema Pocket 4KやRED KOMODO 6Kなどの重いカメラを持ち上げることを目的として設計されており、大きなモーターを搭載できるようになってるようです。
ただ、取り付けで対応しているパターンが仕様として公表されている訳ではありません。
もしフレームの仕様に充分な情報が公表されていないものの、メーカーが推奨する組み合わせが公表されている場合は、そこで使用されているモーターを参考にしましょう。
もしメーカー推奨の組み合わせも情報がない場合は、Youtubeやブログなどでそのフレームの活用事例を調べ、そこで使用されているモーターを参考にすることで互換性のある企画にたどり着く事ができます。
5インチクラスのモーター
この「FPVモーター」シリーズの記事では、主に互換性に焦点を当てています。
しかし、5インチクラスには非常に多くのモデルがありますので、フリースタイルの分野で主流と言えるモーターの特徴にも少し触れておきましょう。
動作電圧
従来は4S用のモーターが主流でしたが、現在はどちらかと言うと6S用のモーターが主流となっています。
6Sの利点は高電圧による高い瞬発力だけでなく、同じ回転数を得るために高電圧でモーターを回すことで、ESCへの負荷が軽減されるとも言われています。
ただし、6Sで構成すると機体の離陸重量が増加しやすくなります。
6Sはその重量増を補うほどのパワーがありますので、純粋にデメリットとは言えませんが、クラッシュ時の衝撃は大きくなります。
フリースタイルフレームのアームの厚さが4mmから5.5mmにシフトしている点に触れましたが、これは6Sの高出力と重量増に対応し耐衝撃性能を高めた結果と考えられます。
回転速度
4S用では2300KV〜2800KV周辺、6S用では1700KV〜2020KV周辺の様々な回転速度のモーターが販売されています。
最近のフリースタイルのトレンドとして、回転数がますます高くなっているという印象があります。
T-Motor F60Pro Vでは6S用として2020KVのモーターが提供されており、これほど高回転なモーターがリリースされたのは、それに耐えられるESCが登場したことも背景にあると考えられます。
どのKV値のモーターを選択するかは個人の好みですが、高回転モーターほどESCの性能が要求されます。また、わずかな機体の不具合でもモーターは熱を持ちやすくなるため、特に注意が必要です。
自分にとって最適なモーター
今回、5インチクラスのモーターについて概要を紹介しましたが、実際に推力を生み出すのはモーターではなく、プロペラです。
そのため、同じモーターでもプロペラを変えるだけでフライト全体の感触は大きく異なるものになります。
このクラスでは、モーターとプロペラの両方に多くのモデルが存在しているため、好みの組み合わせにたどり着くには多少時間がかかるでしょう。
モーターの選び方で一番簡単な方法は、好きなパイロットや理想のセッティングを公表している方の構成を参考にすることです。
これが最もわかりやすい初めのステップになるでしょう。
次のステップでは、信頼できるモーターメーカーを見つけることが重要です。
モーターは一定期間でモデルチェンジされることが多いため、腰を据えて取り組みたい場合は、長く続いているシリーズのモーターに注目すると良いでしょう。
信頼できるメーカーと気に入ったシリーズを見つけた段階になると、その頃には自分のフライトスタイルを客観的に評価できるようになると思います。
この段階まで来たら、組みたい機体の目的や自分のスタイルに合ったKV値のモーターを選ぶ際に迷うこともないでしょう。
今後、別のクラスのモーターについても記事にしていきたいと思いますので、モーター選びの参考にしていただければ幸いです。